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東京地方裁判所 昭和38年(行)97号 判決 1968年6月27日

原告 東洋配合飼料株式会社

被告 足立税務署長

訴訟代理人 川村俊雄 外三名

主文

一、原告の本件訴のうち、被告が原告の昭和三五年八月一日から昭和三六年七月三一日までの事業年度分の法人税につき昭和三七年四月三〇日付でした別紙(一)記載の更正処分の取消しを求める部分を却下する。

二、被告が原告の右事業年度分法人税につき昭和三七年九月二九日付でした別紙(二)記載の再更正処分(ただし課税所得金額については、三六万八、三八五円を、法人税額については一二万一、五三〇円をそれぞれ超える部分)を取り消す。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

被告が原告の昭和三五年八月一日から昭和三六年七月三一日までの事業年度分の法人税につき昭和三七年四月三〇日付でした別紙(一)記載の更正処分及び同年九月二九日付でした別紙(二)記載の再更正処分をいずれも取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二原告の請求原因及び被告の主張に対する反論

一、原告は、飼料及び肥料の売買を営む法人で、昭和三三年以来青色申告書提出の承認を受けているものであるが、昭和三五年八月一日から昭和三六年七月三一日までの事業年度の法人税について、昭和三六年九月三〇日被告に対し、課税所得金額三六万八、三八五円、法人税額一二万一、五三〇円とする青色確定申告書を提出したところ、被告は、昭和三七年四月三〇日付で別紙(一)記載のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)をし、これに対する原告の同年五月三〇日付再調査請求を同年八月二八日棄却した。そこで、原告は、同年九月一四日東京国税局長に対し審査請求をしたところ、被告が同年九月二九日付をもつて別紙(二)記載のとおり再更正処分(以下「本件再更正処分」という。)をしたので、同局長は、右更正及び再更正処分を併せ審査のうえ、昭和三八年八月二七日付で別紙(三)記載のとおり審査決定をし、その通知書が同年九月一〇日原告に送達された。

二、しかしながら、本件更正及び再更正処分には、まず、次のような手続上の違法がある。

(一)  本件更正通知書には、更正の理由として、

加算

1 損金計上都民税          三、〇〇〇円

2 減価償却超過額      二一六万七、一二〇円

3 たな卸計上洩        九九万四、二一七円

内訳 原料             四〇万七、〇五二円

製品                五八万七、一六五円

4 支払利息中否認      二九八万一、五四七円

東洋物産(株)立替利息相当分

5 売上計上洩         九三万四、三八四円

丸和(株)に対する小麦粉三二四袋売上分

6 借地権評価減否認   二、四二九万四、四九二円

千住関屋四所在の借地六九三・五一坪

7 繰越欠損金控除誤謬額     三万七、九一四円

以上加算合計         三、一四一万二、六七四円

除算

1 建物認定額          六万〇、〇〇〇円

借地権の価額に算入した建物とりこわし費用相当分

以上除算計              六万〇、〇〇〇円

と記載されている。なお、右更正処分においては重加算税が課されているが、原告の計算の基礎のいかなる部分が仮装隠蔽に該当するのか全然記載がない。

また、本件再更正通知書には、再更正の理由として、加算の部

1 交際費損金不算入額     六九万〇、四八〇円

旧租税特別措置法第六二条の規定による否認額が加算洩れであつたから再更正の上否認します

と記載されている。右再更正は、その通知書に、所得金額、税額が当初の更正に係る金額と対比して記載されているから、当初更正の金額に右の交際費損金不算入額を上積みしたものであることが窺われる。

(二)  法人税法が、青色申告法人の申告に対し更正処分を行なう場合に、当該更正通知書に理由の附記を命じているのは、単なる訓示規定と解すべきではなく、通知書自体の理由の記載に不備があれば違法な課税処分として取消しを免れえないことは、今日では異論のないところである。

ところで、前記更正及び再更正通知書の各記載のうち、その記載自体の文言により、更正の理由として、僅かに理解しうるのは、更正通知書記載理由の1、5及び7のみであり、その余の項目に至つては具体性に乏しく、かつまた認定金額がいかなる資料に基づくか全然不明であり、理由の記載としては不備で理由の附記がなされていないに等しい。

たとえば、更正通知書2の減価償却超過額二一六万七、一二〇円はいかなる償却資産の何が償却超過であるのか不明であり、同じく3のたな卸計上洩も、いかなる原料又は製品の数量又は評価方法に欠缺があるのか不明である。また同4の支払利息中否認二九八万一、五四七円は、東洋物産株式会社に対する利息立替の損金計上を認めないという趣旨に理解したとしてもそれは更正の結論であつて理由ではない。更に6の借地権評価減否認二、四二九万四、四九二円に至つては、右更正に係る加算中金額の最大のものであるが、右記載のみでは全く理解できない。原告は当期において新規に借地権一六〇万円を計上した事実はあるが、借地権の評価減を計上した事実はない。評価減を行なわないのにこれを否認するということはありえない。すなわち、何が故にこれを所得に加算しなければならないかの説明にはならない。いわんや否認金額二、四二九万四、四九二円がいかなる資料に基づき算出されたのかは、全然示されていない。

また、再更正決定通知書では、単に交際費損金不算入額六九万〇、四八〇円を更正処分の所得金額に上積みする趣旨が窺われるが、前記更正通知書の理由不備は補正されていないから、これまた理由不備のそしりを免れえない。

このように本件更正及び再更正処分の附記理由はその主要部分が不備であり、法が理由附記を要求した前記の趣旨に適合しないことが明らかであるから、右各処分はこの点において違法であるといわなければならない。

(三)  被告は、原告が本件更正の理由を十分了知しながら、被告の更正許容期間経過後にいたりはじめて理由附記の瑕疵を攻撃することは、時機に後れているのみならず、著しく信義に反し、許されないと主張するが、右主張は以下の理由により失当である。

原告が本訴において附記理由の不備を指摘し、これを処分の違法事由として主張したのは、昭和四一年一一月一〇日午前一〇時の本件第一五回口頭弁論期日においてであるが、当時の訴訟の段階は、被告自身においてすら更正処分の各否認項目の全部につきその理由を開陳しておらず、いわば準備的口頭弁論の過程である。この時機に原告が右違法事由を主張したことは、なんら訴訟を遅延させるものではなく、したがつて時機に後れた攻撃方法ではない。行政訴訟における原告側の攻撃方法の提出が時機に後れたものであるか否かは、もつぱら訴訟法的に考察すべきであつて、行政上の不服申立の段階において原告がこれを主張したか否かは問うところではなく、右の段階において瑕疵を主張しなかつたことが訴訟上の攻撃における時機の当否を判定する基準とはなりえない。

また、行政処分の違法を主張する場合には、信義則の適用はない。すなわち、課税処分においては、課税庁は納税者に対し、優越的な意思の発動として、法規の命ずるところに従い、公権力の行使たる処分を行なうものであり、処分の相手方たる原告の行動、態度に拘束されるものではないから、このような公法上の行為の違法を争うについて、相乱に対等の立場にある私人間の関係に関する一般原則としての信義則がそのまま適用されるとはいいがたい。原告は、被告の援用する嘆願書(乙第四号証)において附記理由の不備を主張しなかつたが、元来納税者は必らずしも法律に精通せず、嘆願書に記載しない事項があつても、課税庁は自ら職権でこれを調査し是正する職責を有する。したがつて、原告が右の嘆願書において附記理由の瑕疵を攻撃しない態度をとつたからといつて、後日訴訟においてこれを攻撃することは正当な権利行使であり、なんら不信行為ではない。

更に、被告は、前記附記理由不備の主張が更正期間後の主張であるから許されないというが、処分の瑕疵を訴訟において主張する時機と、課税庁の更正許容期間とは無関係である。原告は、本件更正処分に不服があつたため、適法な期間内に行政上の不服申立をしているのであるから、課税庁はよろしく原処分の当否を審査し、申立人の主張に拘束されることなく独自に職権をもつて瑕疵を是正する義務があるし、また、訴訟提起後においても、原処分を検討して瑕疵があればこれを是正して差支えない。しかるに、本件においては、被告及び東京国税局長は本件処分の瑕疵につきなんら是正の措置を講じなかつたのであり、右の是正を原告が不公正な方法で妨げたという事情もない。被告側は瑕疵の是正の機会を与えられたのに拘らず、この機会を失つたのであるから、原告がその瑕疵をいかなる時機に攻撃しても不信行為にはならない。

以上の次第であるから、附記理由の不備を原告が主張することについて、被告主張のような非難を受けるべきいわれはまつたくない。

三、更に、本件更正及び再更正処分には、次のような実体上の違法がある。

すなわち、被告は、本件処分の主要な理由として、原告が取得した足立区千住関屋町四番地の土地六九三・五一坪(以下「本件土地」という。)の借地権についての計上金額が、時価相当額に比して低額にすぎるので、その差額を益金に加算したと主張するが、右の加算は失当である(その他の加算項目のうち後記「売上計上洩」以外については争わない)。

(一)  本件土地借地権取得の経緯

本件土地は、もと日本農水産株式会社(以下「日本農水産」という。)が、その所有者である合名会社鈴木保有社(以下「鈴木保有社」という。)から賃借使用していたもので、この賃貸借契約によれば、右土地の使用目的は木造建物敷地、賃借期間は昭和二二年四月一日より昭和四二年四月一日まで、賃料は契約の当初一箇月金五、五四八円、その後数次の改訂を経て昭和三五年頃は一万三、一八〇円とされており、また特約として、賃貸人の承諾を得ない賃借物の原状並びに使用目的の変更を禁じ、転貸並びに賃借権の譲渡をしないこと、賃借物上の建物の譲渡には予め賃貸人の承諾を得ること、上記賃貸人の承諾は書面によるものとすること、契約内容の変更の場合は公正証書を作成すべきこと等が定められていた。

ところが、日本農水産は、昭和二九年二月頃倒産し、その後昭和三〇年六月一〇日にいわゆる第二会社として設立された東京配合肥料株式会社(以下「東京配合肥料」という。)が本件土地上の建物、設備を日本農水産より借受け営業を開始したが、昭和三二年夏頃東京配合肥料も倒産した。東京配合肥料倒産後いくばくもなく、右会社並びに同会社の主要取引先の一である東洋物産株式会社(以下「東洋物産」という。)の関係者等は、本件土地上の建物、設備を利用し、新規に同種の事業を始めるよう企画し、ここにおいて昭和三三年四月一九日原告が設立された。

原告は、営業開始に際し本件土地上の建物及び設備をその所有者である日本農水産の承諾を得て東京配合肥料から賃借(転借)することとし、その対価として右物件の使用料として毎月八万円を支払うほか、日本農水産及び東京配合肥料の第三者に対する債務のうち公租公課等已むを得ず支払を要するものを月額一〇万円を限度として右二社に代り支払うこと及び日本農水産が賃貸人に支払うべき本件土地の賃料等も原告が日本農水産名義で代つて支払うことを約し、物件の引渡を受け使用を開始した。

このようにして原告は、昭和三三年四月一九日から本件土地上の建物、設備を使用して営業を開始し、その使用の対価の一部として東京配合肥料の旧債務の一部を支払うこととしたものの、東京配合肥料の旧債の処理がすべて解決されたわけではない。すなわち、東京配合肥料は東洋物産に対し、その営業中の取引によつて生じた現金借入、買掛金その他七五〇万円に及ぶ多額の債務を負担し、また東洋物産が東京配合肥料並びに日本農水産の第三者に対する債務の立替払をしたものも少くなく、これを併せれば一、〇〇〇万円以上に達していた。その結果、東京配合肥料は東洋物産に対する右債務の弁済に代え、本件土地上の建物及び借地権を日本農水産より譲受け、更にこれを東洋物産に譲渡することとなり、昭和三三年一二月一〇日、東洋物産、東京配合肥料、日本農水産、三者間でその旨の契約が成立した。但し右物件の譲渡に伴う借地権譲渡のために必要な賃貸人たる鈴木保有社の承諾は、同社より多額の名義書替料を要求される虞があり、かつまた前記のとおり右建物は現に原告が使用中で東洋物産自身はこれを使用する必要もなかつたため、建物の所有権移転登記及び借地権譲渡の賃貸人の承諾を得る件はしばらく行なわないこととした。

右の如き関係がしばらく続いた後、昭和三五年暮頃に至り、原告は従来賃借中の前記建物が老朽化し工場としての使用に支障が生じ、また設備拡張のため、これを取壊し新たに鉄骨、コンクリート造り等の工場建設が企画された。ところで、右の企画を実現させるためには、東洋物産からは前記建物及び本件土地の借地権の譲渡を受ける必要があり、他方、土地所有者たる鈴木保有社に対しては借地権譲受のための承諾並びに従来の賃貸借契約の目的である木造建物所有のための賃貸借を堅固な建物所有の目的に改め契約期間を延長する承諾の双方を受ける必要があつたので、原告は、昭和三五年一二月頃東洋物産に対し、右建物及び借地権の譲受につき申し入れたところ、東洋物産においては、右物件の取得のための出捐及びその金利並びに当時の右借地権の評価額等を検討のうえ、右譲渡の代金として金三、三〇〇万円の支払いを求めた。原告はこれに対し、右借地権の譲受及び使用目的変更並びに賃借期間の延長につき鈴木保有社の承認が得られたならば右代金を支払うことを約し、ここに昭和三六年二月に至り、原告、東洋物産間において右建物及び借地権譲渡に関する売買契約が成立した。すなわち原告は、本件土地の借地権並びに同地上建物を東洋物産より金三、三〇〇万円をもつて買入れた(なお、この譲受代金三、三〇〇万円は、昭和三七年九月一九日東洋物産が東洋棉花株式会社に対して負担する債務の弁済のため同会社に債権譲渡をしたので、昭和四一年七月二五日原告と東洋棉花株式会社との間において他の貸借関係と共にすべて決済を終えた)。

他方、原告及び日本農水産は、昭和三五年一二月頃本件土地所有者たる鈴木保有社の賃貸借に関する管理人である東京建物株式会社(以下「東京建物」という。)に対し、日本農水産より原告に対する借地権の譲渡の承諾を求め、併せて原告による使用目的の変更並びに契約期限の延長方の交渉を始めた。これに対し右東京建物は名義書替料として金一六〇万円を要求した。原告としては前記のように、単なる従来の日本農水産の有する借地権の承継のみでは所期の計画達成には不十分ではあるが、とりあえず右一六〇万円を支払い名義書替をなし引続き前記目的に副う内容の契約更新について交渉することとし、昭和三六年三月より五月までの間三回にわたり東京建物に対し合計金一六〇万円を支払つた。

原告は引き続き東京建物との間に前記のような契約更新の件につき折衝を重ね、昭和三七年一二月に至り、ようやく原告より鈴木保有社に対し契約更改手数料名義をもつて金三四六万円を支払うことにより、本件土地の賃貸借目的を堅固な建物の所有に、また賃借期間の終期を昭和六六年三月一〇日までとすることの同意を得た。但し当時既に本件土地上の木造旧建物は取壊され、堅固な建物が完成していたので、その間の賃貸借関係を適法ならしめるため、賃借期間の始期は既住に遡らせ、昭和三三年三月一〇日とした。

原告は、このように本件土地の借地権を取得するため、東洋物産に対し金三、三〇〇万円の債務を負担すると共に、土地所有者に対しては、名義書替料及び契約更改手数料名義のもとに合計金五〇六万円の支出をなしたものである。以上の経緯により明らかなとおり、原告は、本件土地の借地権を日本農水産より無償で譲受けたものではなく、原告の本件係争事業年度の帳簿上、右借地権譲受に関し、地上権なる科目に一六〇万円を計上しているのは、前記経緯により、当期中に一六〇万円を現実に支出したため、これを記帳処理したにすぎず、他意はなかつた。

(二)  被告は右の処理について、「本件土地上の借地権は原告において時価に比して著しく低い価額で減価償却資産以外の資産を取得したところ、借地権は時価相当額をもつて取得価額とすべきものであるから、昭和四〇年省令一二号による改正前の法人税法施行規則第二一条の七により、右差額を総益金に加算した。」と主張する。しかしながら、原告が右借地権の低額譲渡を受けたものでないことは前記のとおりであると共に、被告の評価額の算定も過大である。すなわち、被告主張の計算根基中「路線価評価に基づく借地権時価額二、〇一五万九、二九五円」がどのような見解のもとに算出されたのか詳かでないが、被告の前提とする借地権の態様は、賃借期間が将来に向い長期間存続し、期間満了の際にも更新が予定され、借地人が十分に賃借地を利用収益しうるような賃貸借上の権利を想定し、原告の前記賃借権取得の事情及び賃借権の内容を無視して評価したものと解される。しかしながら、原告が日本農水産より譲受けた借地権は、本件係争年度末においては、その賃借残存期間は僅かに六年、使用目的は木造建物所有のためであるが、既存の木造建物は取壊され、賃貸人の承諾を得ないままに堅固な建物の築造に着手し、原告と賃貸人間において契約期間の延長並びに使用目的の変更(非堅固な建物所有の目的より堅固な建物所有目的への変更)の交渉は未だ妥結していない情況にあつた、したがつて、本件賃貸借の法律関係は、賃貸人が欲するならば使用目的違反を理由に契約の解除権を行使することも可能であり、あるいは契約期間満了と共に正当事由ありとして更新拒絶の挙に出るやもはかり難いのであるから、賃借人の有する地位は、通常賃貸借の場合に比べ著しく弱く、かつ暫定的なものであつた。右のような内容の借地権は、その経済的評価において通常の借地権と同様でなければならない理由は少しもない。

すなわち、本件係争年度中の原告の借地権は、法律的にも経済的にも不完全な利用収益権であり、完全なる権利を取得すべく交渉中の暫定的なものであるから、原告が名義書替料として支出した一六〇万円は、帳簿処理上仮勘定的なものとして記帳すべきであつた。原告がこれを「地上権」一六〇万円と計上処理したのはいささか誤解を招き易い不完全な表現であつたが、前記借地権の実態が右の如きものである以上、その実態に即し、現実に支出した金額のみを計上したことに不当はない。

なお、原告は、本件第一〇回及び第一二回口頭弁論期日において、被告の主張する本件借地権評価減否認額の計算根基中の各評価額が被告主張のとおりであることを争わない旨陳述したが、このうち以上の主張に反する部分は真実に反し、かつ錯誤によるものであるから撤回する。

(三)  仮に当時の借地権の内容が右の如きものであつたとしても、なおかつ被告主張の如き時価相当額を借方として計上しなければならないとするならば、原告は右借地権取得の対価として計上した名義書替料一六〇万円以外に、東洋物産に対し当期において三、三〇〇万円の債務を負担しており、右は当期の決算における簿外の負債であるから、これを正当な経理に修正すれば、貸方に「未払金」として三、三〇〇万円を加算すべきである。したがつて当期の損益は次のように修正されるべきである。

(1) 原告会社の当期利益金   五七六万三、二八五円(イ)

(2) 加算の部

借地権被告主張額        一、九三九万六、九三〇円(ロ)

(3) 減算の部

未払金計上洩          三、三〇〇万〇、〇〇〇円(ハ)

(4) 損益修正による当期欠損(イ)+(ロ)-(ハ) △七八三万九、七八五円

以上のとおり、本件土地上の借地権関係のみの損益の計算を、仮に被告主張のこれに関する否認理由を認めたうえでしたとしても、右の如く本件係争年度には所得が存せず、反対に欠損が生じていることとなる。したがつて、本件係争年度において、原告には被告主張のような所得が存しないから、被告の本件更正及び再更正処分は違法である。

四、次に被告は、本件更正処分において、売上計上洩九三万四、三八四円を加算し、かつ、右は原告が所得を隠蔽したものとして重加算税を賦課しているが、これも以下の理由により違法である。

(一)  原告には被告主張の如き売上計上洩はない。

原告は、かねて日本皮革株式会社(以下「日本皮革」という)より、同会社手持ちの小麦の販売先を世話して欲しいとの依頼を受け、原告の取引先であつた丸和株式会社(以下「丸和」という。)との間において仲介の労をとつた結果、日本皮革より金額九三万四、三八四円相当の小麦粉を丸和に売却する取引が成立した。昭和三五年九月八日、原告は丸和から右代金九三万四、三八四円を日本皮革に届けるために預り、日本皮革に持参するまでの間とりあえず当座預金としてその旨記帳処理した。そして、同年九月二〇日、原告は右預り金を日本皮革に持参しようとしたが、たまたま当日当座預金の残高が不足していたので、従来から資金を融通しあつていた東洋物産より前記代金相当額を借受けこれを丸和より預つていた代金として日本皮革に持参すると共に、原告の会計処理上は右借入金を東洋物産からの仮受金として処理していた。なお、この借入金は、昭和三三六年七月三一日原告の東洋物産に対する売掛金七一万一、四〇〇円と相殺し、決済を完了した。

このように、本件売上は日本皮革より丸和に対するものであつて、原告はその取引を仲介したにすぎないから、これを原告より丸和に対する売上としたのは事実誤認である。

(二)  被告は、右の取引に関し、原告が再三事実に反した経理操作を行ない、所得を隠蔽したと主張するが、原告の会計処理はいずれも実態に即したものであるし、仮に原告が丸和より受領した九三万四、三八四円が小麦を売却した売上であるというならば、原告が日本皮革に持参した九三万四、三八四円は右売上に対応する仕入代金であるということになるはずであり、結局原告になんらの所得も発生しなかつたことになる。所得の発生しない場合に所得の隠蔽はありえない。

以上のとおり本件更正及び再更正処分はいずれも違法であるから、その取消しを求める。

五  本訴の適法性について

被告は、更正処分と再更正処分との関係につき、いわゆる一体説(更正処分が再更正処分に吸収されるという説)に基づき、本件更正処分の取消しを求める訴は不適法であると主張するので、此の点に関する原告の所見を明らかにしておく。

更正処分と再更正処分との相互関係については、被告の主張するように、再更正処分が更正処分を吸収し、一体的なものとなるという所論は、いささか比喩的に過ぎる嫌はあるが本件の如き増額再更正処分は、もとの更正処分を違法として取消し、その効力を覆えし新たな処分をなす性質を有するものではなく、また更正処分をそのままとして、所得金額の看過、脱漏した部分だけを追加する処分でもないという意味において、被告の見解に同調する。しかしながら、そうであるからといつて、当初の更正処分につき適法な訴願手続が行なわれ引き続き右処分の取消を求める訴が提起された場合に再更正処分が存在するという理由で、右訴が不適法になるという被告の見解には左袒できない。すなわち、当初の法人税更正処分と後の再更正処分とが一体をなすと解するとしてもこれは右両者の処分が等しく同一法人の同一事業年度の具体的租税債務がいくばくであるかを決定する処分であるため、前後する二箇の処分がそれぞれ別個の効力を生ずるものではないというにすぎず、行政処分としては依然として二箇の処分が存在するのである(国税通則法第八一条、第八二条が両者の併合審理の規定をもうけているのもその現われである)。したがつて、行政訴訟において、更正処分、再更正処分、再更正処分いずれについても、場合によつてはその双方について、処分の取消を求める訴の利益がある限り、司法審査の対象たりうるはずである。もし再更正処分のみが訴訟で争い得ると解するならば、当該再更正処分がその固有の瑕疵(たとえば手続的な瑕疵)の故に違法とされ取消された場合には、当初の更正処分は依然として効力が存し、当初の更正処分固有の瑕疵(たとえば実体上の瑕疵)による違法は救済を受けることができない。また、再更正処分が固有の瑕疵により無効で、しかも更正処分が違法な場合に、再更正処分が存在するという理由で、更正処分の取消しを求める訴が許されないと解するならば、その不合理はますます甚しいといわなければならない。

本件再更正処分が、さきの更正処分における所得金額の計算を是認踏襲したうえで、新たな調査の結果発見した別途の所得を追加して更正処分の金額に加算したものであることは前記のとおりである。右のような再更正処分が更正処分の単純な金額の上積みをなしているにすぎない場合においては、この両処分双方を同時に取消しを求める必要があり、したがつて更正処分の取消しを求める訴は適法である。

第三被告の答弁及び主張

(本件更正処分の取消しを求める訴の適法性について)

原告は、本訴で、更正(国税通則法第二四条)と再更正(増額再更正、同法第二六条)の二の処分の取消しを訴求しているので、まず、更正と再更正の相互関係とこれらの処分に対する争訟方法について述べる。

更正と再更正とは別個の二つの処分であるが、この両者は全く同一の「ある納税義務者のある年度分の所得がいくらであるか」を認定する処分であるから、再更正があると、再更正は更正を吸収してしまい、この両者は一体的なものとなり、再更正だけが争訟の対象となるものと解すべきである。そして、ただ再更正がそれ自体の瑕疵に基づき取り消された場合には、前の更正が再更正との一体的関係を解消し、その効力を復活することになると解すべきである。

国税通則法第二九条において、「更正ですでに確定した税額にかかる部分の納税義務は、再更正によつて影響を受けない」旨定めているが、この規定は、更正と再更正との相互関係について前叙の吸収一体説に基づく考え方を前提として、必要な徴収面の手当を立法上でしているものと解すべきである。なお同法第六五条及び第七三条も、更正と再更正との相互関係について前叙の吸収一体説に基づく考え方を前提としたうえで、過少申告加算税について特別に再更正による増差額を基礎とすること、また、時効の中断及び停止について特別に再更正による増差額の範囲で効力の生じることを明確に定めたものと解すべきである。また、同法第八一条、第八二条及び第八七条第一項第三号は、併合審理等について定めたものであるが、これらの規定も更正と再更正との相互関係について吸収一体説に基づく考え方を前提とする場合に当為的に必要な争訟手続を定めたものと解すべきである。

それで、再更正がされた場合において、納税義務者が当該年度の所得をいくらであると主張し、その主張所得金額を上廻る課税庁の認定を不服とするときには、再更正の取消しを訴求すべきであり、また、再更正の取消しを訴求すれば足りるものである。そしてこの再更正に対する争訟において、その不服の範囲が審理の対象となるのであり、(その不服の範囲が、更正を上廻るものか下廻るものかを問わず、下廻る場合でも課税庁の認定に対する不服の範囲が一体的に審理の対象となるのであり)再更正に対する争訟で更正にかかる認定金額を下廻る判断がされると、その限度で、更正ないし再更正の手続を経た課税庁の認定が取り消されることになると解すべきである。

再更正がされた場合において、納税義務者が当該年度の所得をいくらであると主張し、その主張所得金額を上廻る課税庁の認定を不服とするときには、再更正の取消を請求すべきであり、また再更正の取消しを訴求すれば足りるから、この場合に、再更正の取消しの訴に併せて更正の取消しを求めている訴は、不適法な訴というべきである。

(本案について)

一、原告の請求原因一の事実並びに本件更正及び再更正処分の附記理由が原告主張のとおりであることは認めるが、右附記理由が不備であるとの主張は争う。

すなわち、法人税法が青色申告法人に対する更正処分に理由を附記することを要求しているのは、青色申告法人は一定の帳簿を備え付けているかぎり、その帳簿書類の調査を経ないで更正を受けることはないとされていることに対応して、更正通知書に当該青色申告法人の提出した申告書及びその備付帳簿書類、ことに後者のどの部分を否定して更正をしたかを明らかにさせることによつて、税務署長が更正にさきだつて必要な帳簿書類の調査を尽すことを手続的に保障するとともに、当該青色申告法人にその更正処分に対して不服申立をすべきかどうか、不服申立をするとすればどの点を捉えて不服申立をすればよいかを判断するための手がかりを与えようとするものであり、一定の申立に対して裁断を行なう判決や審判的な行政処分の理由がその性質上裁断者がその結論に到達するに至つた判断の過程を明示すべきであると解されるのとは、その趣旨・目的を著しく異にしている。そして、更正処分は、いうまでもなく特定の青色申告法人に対する相対的な処分であるから、その更正通知書に附記する理由は、当該青色申告法人の申告書や備付帳簿類及び調査の経過等に照らして、当該青色申告法人がその提出した申告書又はその備付帳簿書類、ことに後者のどの部分が否定せられたかを明らかにしうるものであれば足りるものと解される。

ところで、本件更正通知書に記載されていた附記理由によつて、原告が原告の提出していた申告書及びその帳簿書類、ことに後者のどの部分が否定せられたのかを充分了知しえ、また現に了知していたことは、被告が再調査の請求書として取扱つた原告の昭和三七年五月三〇日付の「更正通知に就ての歎願書」(乙第四号証)において、原告自身が「昭和三七年四月三〇日付足法第二七〇号法人税法等の更正通知書に依る貴更正内容加算及除算中加算第六項借地権評価滅否認の項目以外に関しまして弊社経理事務処理上の誤りがありましたことを認め次期以降速かに調整を致しますことを誓約致します。扨て借地権評価に関しまして御調査当時弊社の処置に関し法的にも経理上にも不備な点を調査官より御指摘を載きましたので適法に処理すべく手続き中でありますので………再審方御願致す次第であります。」と述べていることによつてもきわめて明らかであるから、同通知書に附記されていた理由は、右法人税法の要求をひとまず充していたものであるというべきである。

かりに、右通知書の附記理由が不備であるとしても、原告は、再調査請求、審査請求、本訴を通じて、従来その点を全然指摘しなかつたばかりではなく、前記のように被告の更正理由がどこにあるかは十分了知している旨をむしろ積極的に表明しておきながら、被告において改めて更正を行ないうる期間を経過してしまつた段階になつて、突如としてその形式的な瑕疵を攻撃するが如きは、単に時機に後れているというにとどまらず、著しく信義に反し、許されないものというべきである。

二、本件において被告が原告の申告に係る計算を否認した項目の内容及び認定根拠は、次のとおりである。

1、損金計上都民税         三、〇〇〇円

損金に算入できない都民税を、損金に計上して支出していたので、これを加算したものである。

2、減価償却超過額     二一六万七、一二〇円

応接セツト外三四点の固定資産について、耐用年数の適用もしくは期中に取得したものに対する按分計算を誤つたために生じた減価償却超過額

3、たな卸計上洩       九九万四、二一七円

原料、製品等の七品種について、たな卸受払簿およびたな卸原表において集計を誤り、または乗算を誤つたために生じたたな卸製品等の計上漏額

4、支払利息中否認     二九八万一、五四七円

訴外東洋物産株式会社の商業手形を原告会社の取引銀行で割引き、その割引料を損金に計上したものであるが、原告会社が負担すべき費用ではないので否認したものである。

5、売上計上洩        九三万四、三八四円

原告は、昭和三五年九月八日小麦粉三二四袋を訴外丸和株式会社に九三万四、三八四円で売却したにもかかわらず、これを収益に計上せず訴外東洋物産株式会社に対する仮払金の入金として処理したために生じた売上脱漏額である。なお、原告は、右売上につき架空の会計処理を行なつて所得を隠蔽していたので、被告は本件重加算税を賦課したのであるが、これについては後記四に述べる。

6、借地権評価減否認  一、九三九万六、九三〇円

この否認の根拠については次の三において述べる。

7、繰越次損金控除誤謬     三万七、九一四円

原告は、確定申告書において、昭和四〇年法律第三四号による改正前の法人税法第九条第五項の繰越欠損金を三万七、九一四円過大に損金に算入にしているので、加算したものである。

8、交際費損金不算入額    六九万〇、四八〇円

原告が損金に算入した交際費二六〇万六、二〇九円について旧租税特別措置法第六二条の規定を適用した結果生じた交際費の損金不算入額である。

三、借地権評価減否認について

(一) 原告は、昭和三六年三月頃、日本農水産株式会社から東京都足立区千住関屋町四番地の宅地六九三・五一坪の借地権と同地上建物を譲り受けた。原告の右取得目的は、建物を取りこわしたうえ、ここに原告会社の工場倉庫を建設することにあつた。そして原告は、右借地についてはその所有者たる合名会社鈴木保有社に対し名義書替料一六〇万円を支払い借地権の譲渡について承諾を得て賃貸借契約を更新するとともに、右建物については昭和三六年六月二〇日所有権移転登記手続を経由した。

ところで、原告は、取得した借地権及び同地上建物について法人税法上時価相当額をもつて取得価額とすべきものであり(昭和四〇年省令第一二号による改正前の法人税法施行規則第二一条の七)、その取得価額をもつて原告の本件事業年度の総益金に計上すべきところ、原告は右借地権等の取得価額として単に一六〇万円を地上権として計上しているにすぎなかつた。それで、本件更正処分においてはその差額を二、四二九万四、四九二円として総益金に加算していたのであるが、本件審査決定により、借地権の取得価額の計算を一部修正し、否認額を一、九三九万六、九三〇円に減縮した。

右差額の計算根基は次のとおりである。

路線価評価に基づく借地権時価額   二、〇一五万九、二九五円(イ)

建物評価                 七七万七、六三五円(ロ)

借地権名義書換料            一六〇万〇、〇〇〇円(ハ)

建物とりこわし費用             六万〇、〇〇〇円(ニ)

借地権評価減否認額(イ)+(ロ)+(ニ)-(ハ) 一、九三九万六、九三〇円

(二) 原告が「本件土地借地権取得の経緯」として主張する事実(三(一))のうち、本件土地が鈴木保有社の所有に属し、もと日本農水産が賃借使用していたこと、その当初における契約内容が原告主張のとおりであつたこと、日本農水産が昭和二九年に倒産し、東京配合肥料が昭和三〇年六月一〇日設立されたが、これも昭和三二年に倒産し、昭和三三年四月一九日原告が設立されたこと、原告が本件土地上の建物及び設備を営業開始とともに使用し、本件係争事業年度中において工場の新築工事を始めたこと、原告が本件土地の管理人である東京建物の借地名義書替料として一六〇万円を昭和三六年三月から三回に分けて支払い、また、昭和三七年二月に原告が鈴木保有社に対し契約更改手数料名義で三四六万円を支払うことを約し、その後同社との間に原告主張のような内容の賃貸借公正証書が作成されたこと、昭和三七年一二月にはすでに本件土地上の旧建物は取りこわされ、堅固な新建物が完成していたこと、以上の各事実は認めるが、本件土地上の旧建物及び借地権が日本農水産から東京配合肥料を経て東洋物産に譲渡されたこと並びに原告がこれらを東洋物産から譲り受けたことはいずれも否認する。その他の事実は知らない。

原告は、その主張三(二)において、本件借地権の評価額を争つているが、原告はすでに昭和四〇年一二月一日の本件第一〇回口頭弁論期日及び昭和四一年三月一七日の本件第一三回口頭弁論期日において、被告の主張した前記計算根基中の各評価額が被告主張した前記計算のとおりであることを争わない旨陳述しているから、これを撤回することは自白の撤回に該当し、被告はその撤回に異議がある。

原告の主張三(三)についてはすべて争う。なお、もし原告が本件借地権等を三、三〇〇万円で取得したとしても、貸借対照表の借方(資産の部)に借地権等が計上され、貸方(資本、負債の部)に未払金が計上されて貸借対照表勘定が増加するのみで損益計算には影響がないから、原告の当期利益金に加算減算を生ずることはない。

四、重加算税賦課決定の根拠について

前記のとおり、原告は、昭和三五年九月八日に、千代田区神田旅籠町の内田ビル内にある丸和株式会社に小麦粉三二四袋を九三万四、三八四円で売却した。ところが、原告は、右売上代金の入金に際し、(借方)当座預金九三万四、三八四円、(貸方)売上九三万四、三八四円、と正規の会計処理を行なつて売上に計上すべきであつたにもかかわらず、次のような仮空の会計処理を行なつて所得を隠蔽した。

(借方)当座預金九三万四、三八四円・(貸方)預り金九三万四、三八四円、売上代金を預り金として受入れる。

(借方)預り金九三万四、三八四円・(貸方)仮受金九三万四、三八四円、預り金を東洋物産からの仮受金に振り替える。

(借方)仮受金九三万四、三八四円・(貸方)仮払金九三万四、三八四円、東洋物産株式会社に対する仮受金と仮払金を相殺する。

原告は右のような経理操作を行ない事実を仮装して、丸和株式会社に対する売上を脱漏した結果、東洋物産株式会社に対する仮払金を不当に減額して、所得を隠蔽していたものである。

したがつて、被告は、右売上計上漏額九三万四、三八四円は前記改正前の法人税法第四三条の二第一項に該当するものとして、同項所定の重加算税一七万七、五〇〇円を賦課決定したものである。

なお、原告は、右売上を隠蔽又は仮装した事実はないと主張するが、本件売上計上洩が、たんなる事務上の誤りであるならば、前述のように一度ならず二度、三度と事実に反した経理操作を行なう理由はなく、また、元帳上、売上に計上せず仮払金を減額した会計処理を行なつた結果、元帳上の仮払金の残高と仮払金補助簿上の各残高の合計とは相違し、記帳の誤りは容易に発見されたはずであるにもかかわらず、正しい決算修正がなされなかつた点からみても原告の右主張は措信しがたい。

第四証拠関係(省略)

理由

一、原告の請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、まず、本件更正処分の取消しを求める訴えの適否について判断する。

申告に係る税額等につき更正があつた後に、いわゆる増額再更正がなされた場合、この両者がどのような関係になるかについては見解の分れるところである。一般に更正、再更正は、いずれも、税務官庁により行なわれる別個独立の行為であるが、いずれも成立した一個の租税債務ないし納税義務をその正当な数額に具体化するための行為であり、具体的にはそれぞれ、課税標準又はこれに基づく税額(以下単に「税額」という。)を全体として確認する処分であつて、増額再更正についていうと処分それ自体は更正に係る税額の脱漏部分だけを追加確認する処分ではなく、当初更正に係る税額を含めて全体としての税額を確認する処分である(国税通則法第二四条、第二六条)。しかし、再更正に伴なう法律効果の点からみると、再更正が更正を変更する意味を持つことは否定できないが、それは瑕疵ある行政行為に対して一般に行政庁が有する取消変更権とその性質根拠等を異にし、税務官庁の有する前記のような更正権によるものであつて、具体的には増額再更正は、当初更正の効力を全面的に失なわせて改めて新規に納税義務の範囲確定の効力を生ぜしめるものではなく、その効力は増差額に関する部分についてのみ生ずる(当該部分を除く税額の部分については、既に申告や前になされた更正によつて、段階的に効力を生じている。)ものである(同法第二九条第一項なお、同法第七三条参照)。

増額再更正がこのような一種独特な性質を有していること、とりわけ更正と増額再更正はそれぞれ別個独立の行為であつて増額再更正によつて更正による効力は影響を受けないものであるけれども、更正権の性質にかんがみ、増額再更正の処分内容そのものは、あくまでも税務署長の税額全体に対するいわば最終的な、かつ、統一的な認識ないし確認として把握すべきものであり、したがつて、再更正が有効になされると、更正は再更正と矛盾する内容をもつ処分として存続することが許されなくなるものと解せざるをえないこと、また審理対象の面からみても、更正、再更正ともにその適否に関する争いは結局金額そのものの争いであるから、争訟手続上両者を統一的に審理するのが適当であることなどを考え合せると、再更正により、当初の更正は、再更正の処分内容としてこれに吸収されて一体的なものとなり、独立の存在を失うものと解するのが相当である。したがつて、更正の後に増額再更正がなされた場合には、納税者は、当該再更正を対象とする取消訴訟において、再更正だけに限らず、更正についても、その手続上及び内容上の一切の瑕疵を主張して審理を受けることができるものであり、その結果例えば再更正固有の手続上の瑕疵(附記理由の不備等)のみが認められたときは、当該再更正に係る増額部分が取り消され、更正に係る部分の効力はそのまま維持されることになるし、更に、再更正に固有の手続上の瑕疵があるばかりでなく、当初の更正に係る税額自体も過大であるという場合には、それをも含めて全体としての税額を最終的に確認する処分である再更正について適正額を超える部分を取り消すことにより、その限度で更正の効力も消滅するものというべきである(なお、当初の更正にも手続上の瑕疵があれば、申告額又は決定額を超える部分が全部取り消され、更正及び再更正の効力は消滅することとなり、以上いずれの場合でも、原告の主張するように、再更正のみを取消しの対象にすると瑕疵ある更正の効力を失わせることができなくなるというものではない)。

これを要するに、増額再更正がなされた場合には、更正及び再更正の瑕疵はすべて当該再更正に対する取消訴訟においてこれを主張することができ、かつ、それによつて目的を達することができるのであるから、それ以外に当初の更正を独立の対象としてその取消しを求める利益はないというべきである。

もつとも、国税通則法第八二条及び第八七条第一項第三号の規定は、更正と再更正とがそれぞれ別個独立に争訟の対象となることを前提とするもののようにみえないではないが、前者の規定は、右二つの処分が一個の税額確定のための段階的行為であることにかんがみ、更正について不服申立てをしている場合には、再更正につき不服申立てをしていないときでも、これを併せ審理できることを定めたものであり、後者の規定も、更正の取消訴訟中に再更正がなされたときは、最終的な税額確認処分としての右再更正を直ちに争わせるため、これに対する出訴につき不服申立前置を不要としたものであつて、いずれも更正と再更正との関係を前記のように解することを妨げるものではない。また、以上の解釈によるときは、更正に対して出訴中に再更正、再々更正等が相次いで行なわれると、納税者は、これに応じて常に最終の処分を対象として訴の追加的併合又は訴の変更を繰返さなければならないこととなるが、この新訴については不服申立前置を要しないこと(前記第八七条第一項第三号)や、もし課税庁の右の措置がもつぱら従来の訴訟における敗訴を免れるために意識的になされたような場合には、更正権の濫用として対処しうることなどを勘案すれば、上記の解釈をもつて、訴訟技術的に納税者の救済を困難にするものであるということはできない。

本件をみると、本件再更正処分が当初の更正処分において認定された所得に新たな調査により発見した別途の所得を追加、加算したものであることは、両処分の後記附記理由の内容によつて明らかである。そして、原告は、右両処分につき、いずれも附記理由の不備と所得額の認定が過大であることを主張してその各取消しを求めているのであるが、右に述べたところによれば、原告の目的を達するためには本件再更正処分の取消しを求めるのみで足り、これとあわせて本件更正処分の取消しを求める利益はないといわなければならない。

よつて、本件更正処分の取消しを求める訴は不適法として却下を免れない。

三、次に、本件再更正処分の取消しを求める訴について判断する。

(一)  原告は、本件各処分の附記理由が不備であると主張するのに対し、被告は、原告の右主張が時機に後れているうえ、信義則にも違反し、許されないものである旨主張する。

本件記録及び弁論の全趣旨によれば、原告が本訴において附記理由の不備を処分の違法事由として主張したのは、昭和四一年一一月一〇日付準備書面に基づき同年一二月一五日午前一〇時の本件第一六回口頭弁論期日においてであり、それまでは右処分に対する再審査請求や審査請求の段階も含めてその点を指摘したことがなかつたこと並びに右主張当時においては国税通則法の定める更正許容期間がすでに経過していたことが認められる。しかしながら、記録上明らかな当時の訴訟進行の程度に徴すると、原告の右主張が時機に後れたものであつて、これにより訴訟の完結を遅延させるものとは認められず、また、たとえ原告が右の瑕疵に気づきながら、あえてこれを更正許容期間内に主張しなかつたものであるとしても、他に特段の事情がないかぎり、それだけで直ちに以後これを訴訟上主張することが信義則に反するものとして許されなくなるということはできない。

よつて、被告の右主張は採用できない。

(二)  原告が本件係争事業年度当時青色申告法人であつたこと、本件更正通知書の更正の理由欄には、

「加算

1  損金計上都民税          三、〇〇〇円

2  減価償却超過額      二一六万七、一二〇円

3  たな卸計上洩        九九万四、二一七円

内訳 原料         四〇万七、〇五二円

製品         五八万七、一六五円

4  支払利息中否認      二九八万一、五四七円

東洋物産(株)立替利息相当分

5  売上計上洩         九三万四、三八四円

丸和(株)に対する小麦粉三二四袋売上分

6  借地権評価減否認   二、四二九万四、四九二円

千住関屋四所在の借地六九三・五一坪

7  繰越欠損金控除誤謬額     三万七、九一四円

以上加算合計     三、一四一万二、六七四円

除算

1  建物認定額          六万〇、〇〇〇円

借地権の価額に算入した建物とりこわし費用相当分

以上除算計            六万〇、〇〇〇円」

と記載され、また、再更正通知書の更正の理由欄には、

「加算の部

1  交際費損金不算入額     六九万〇、四八〇円

旧租税特別措置法第六二条の規定による否認額が加算洩れであつたから再更正の上否認します」

と記載されていることは当事者間に争いがない。そこで、右の程度の記載が法人税法(昭和四〇年法律第三四号による改正前のもの)第三二条の定める理由附記の要件をみたすかどうかを検討する。

元来、青色申告の制度は、納税義務者に対し一定の帳簿書類の備付け、記帳を義務づける反面、その帳簿を無視して更正(再更正を含む)されることがないことを納税義務者に保障したものであるから、同法第三二条が青色申告の更正につき附記すべきものとしている理由には、特に帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにすることを必要とすると解される。すなわち、青色申告の場合においては帳簿の全体について真実を疑うに足りる不実の記載等があつて青色申告の承認を取り消す場合は格別、そのようなことのない以上、更正をするには、帳簿との関連において、いかなる理由により更正するかを明記することを要するものと解すべきであり、また、更正の理由附記は、その理由を納税義務者が実質的に了知していると否とにかかわりのない問題といわなければならない。

かような基準に照らし、本件更正及び再更正の前記附記理由をみると、まず更正の附記理由のうち、「減価償却超過額」及び「たな卸計上洩」は、いかなる資産についての償却方法又は評価方法にいかなる誤りがあるのかが不明であり、「支払利息中否認」及び「売上計上洩」については、いかなる根拠に基づき東洋物産(株)に対する立替利息の損金計上を否認し、丸和(株)に対する小麦粉売上の記帳脱漏を認めたかについての具体的記載を欠き、「借地権評価減否認」にいたつては、借地権の目的土地が特定されているだけで、否認の具体的理由は全くわからず「繰越欠損金控除誤謬訂正」も、どの点に計算上の誤りがあるかの指摘がなく、理由全体としてきわめて不備であつて、とうてい前記法第三二条の要求する理由を附記したものと解するこはできない。また、本件再更正の附記理由も、否認に係る交際費損金算入額がなに故に旧租税特別措置法第六二条の定める限度額を超えるのかについての具体的根拠が不明であり、これまた前記理由附記の要件をみたしたものということはできない。

被告は、原告が本件更正及び再更正通知書の記載によつて原告の申告書及びその帳簿書類のどの部分が否定されたかを十分了知しえたし、現に了知していたものであるから、いずれも理由の附記として違法の点はないと主張するが、更正の理由は、更正通知書の記載自体において明らかにされていることを要しその理由を納税義務者が実質的に了知したかどうかにかかわりないことはすでに述べたとおりであるから、被告の右主張は失当である。

してみると、本件更正及び再更正処分は、いずれもその附記理由が前記法人税法第三二条の要件をみたさない点において違法というべきであるから、右更正処分を吸収一体としている本件再更正処分は、その余の争点について判断するまでもなく、全部(ただし、課税所得金額、法人税額については、前記青色確定申告にかかる課税所得金額三六万八、三八五円、法人税額一二万一、五三〇円をそれぞれ超える部分)の取消しを免れない(その結果本件更正処分に伴つて生じた効力が消滅することはいうまでもない)。

四、よつて、原告の本件更正処分の取消しを求める訴は却下するが、本件再更正処分の取消しを求める請求はこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 緒方節郎 小木曾競 佐藤繁)

別紙

(一) 更正処分(昭和三七年四月三〇日付)

課税所得金額   三、一七二万一、〇五九円

法人税額     一、一九三万三、九八〇円

過少申告加算税額    五七万三、一五〇円

重加算税額       一七万七、五〇〇円

(二) 再更正処分(昭和三七年九月二九日付)

課税所得金額   三、二四一万一、五三九円

法人税額     一、二二一万六、三七〇円

過少申告加算税額    五八万六、二五〇円

重加算税額       一七万七、五〇〇円

(三) 審査決定(昭和三八年八月二七日付)

課税所得金額   二、七五一万三、九七七円

法人税額     一、〇三五万五、二八〇円

過少申告加算税額    四九万三、二五〇円

重加算税額       一七万七、五〇〇円

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